お店決めでひと悶着
お昼が近づき、どこで食べるかという話になった。
こういう時、
どうせ私の意見は通らない。
最初から分かっているから、
何も考えなかった。
一応、子どもにも聞かれる。
けれど、
意に沿わなければ却下される。
却下されるだけならまだいい。
その場の空気が悪くなるのを、
子どもはよく知っていた。
だから、何を聞かれても
「なんでもいいよ」
そう繰り返す。
文句を言われるくらいなら、
最初から答えない。
それが子どもなりの、
精一杯の防御だった。
誰も決めないまま時間だけが過ぎ、
夫が徐々に苛立ち始める。
そんなにイライラするなら、
最初から自分で決めればいいのに。
どうせ最後は、
そうなるのだから。
心の中でそう思いながら、
やんわりと口にした。
「(夫)が決めて」
とても面倒くさいけれど、
“頼まれて決めた”という形が
この人には必要だった。
案の定、選ばれたのは
夫の好きな店だった。
義両親はなぜか、何度も
「(子ども)ちゃん、本当にここでいいの?」
と確認してくる。
そのたびに、
子どもは困ったように黙り込んだ。
子どもに「プレゼントがある」と意味深な夫
店に入り、注文を済ませると、
場の空気はどこか重くなった。
疲れているのか、
誰もほとんど話さない。
料理が運ばれてきても、
無言のまま口に運ぶだけだった。
その沈黙が、
妙に長く感じた。
『何か気に障ることをしただろうか』
そんなことまで考えてしまう自分がいた。
ようやく食事が進んだ頃、
夫がふいに口を開いた。
「今日は(子ども)にプレゼントがあるんだ」
その一言で、
空気が変わった気がした。
嫌な予感がする。
この人がこういう言い方をする時、
ろくなことがない。
内容を確かめようとすると、
「あとのお楽しみ」とだけ言われた。
それ以上は何も教えてくれない。
ただでさえ喉を通らない食事が、
さらに重くなる。
子どもは、
「残すと怒られる」という恐怖から、
必死に食べていた。
その様子があまりにも必死で、
思わず声をかけた。
「大丈夫?食べきれそう?」
すると夫は、
鼻で笑った。
「好物だからいけるだろ」
自信たっぷりにそう言う夫を、
信じられない気持ちで見つめた。
それ、むしろ苦手なものだよ。
前にも伝えたはずなのに。
こういうことが、何度もある。
そのたびに、
この人は本当に子どもを見ていないのだと
思い知らされる。
そして、同じくらい
悲しくなる。
問題は、このあとだった。
食事を終えた夫が向かった先を見て、
背筋が冷たくなる。
携帯ショップだった。
嫌な予感は、
外れることなく的中した。
一気に冷や汗が出る。
子どもに携帯なんて、
絶対に持たせられない。
直接やり取りできる手段を、
与えるわけにはいかない。
どうにかしなければ。
泣きそうになるのをこらえながら、
足早に進む夫の背中を追った。
