2025年12月24日水曜日

私たちの静かな戦い

静寂の中の記録

インターフォンを押すと、すぐに室内に通された。

そこはかつて私たち家族三人で暮らした場所。

ほんの数か月前までは、そこに私たちが確かに存在していたはずなのに――。

懐かしさは微塵も感じられなかった。

立った瞬間に胸が締め付けられ、息が詰まりそうになる。

帰りたい――そう思わずにはいられなかった。

虐待やモラハラの記憶が、あまりにも鮮明に蘇るのだ。

子どもが叩かれ、蹴られる姿を何度も目撃した恐怖。

一日中無視され、張り詰めた空気の中で息を潜めて暮らした日々。

その全てが、この部屋に染みついていた。

だから、ここは私にとって決して「懐かしい場所」ではなかった。

促されるままテーブルの前に座ると、夫はペンを取り出し、静かに書き始めた。

そしてこちらを見て言った。

「今日のことは記録するから。お前もその方が良いよな」

もちろん記録することには賛成だ。

過去の話し合いでは、『言った』『言わない』の争いで何度も心が擦り切れた。

だからこそ、記録は必要だった。

部屋には私たち二人だけ。

テレビも音楽もない、静寂が支配する空間。

その静けさの中に立つと、何だかこれが現実だとは信じられなくなる。

夢――そうであればどんなに楽だろう、とも思った。

夫が何をしているのか分からないまま、準備が整うのを待った。

やがて彼はテーブルの前に座り、マグカップに入ったお茶を差し出した。

結婚前に揃えたペアのカップ――ずっと奥にしまわれていたはずのものだ。

わざわざ持ち出してきたその行為に、私は無意識に警戒していた。


静寂の中の記録

一体、夫はいつから私たちの居場所を知っていたのだろうか。

少なくとも、2〜3か月前までは知らなかったはずだ。

もしかしたら、巧みに騙していたのかもしれない。

手紙を送ってきたことがただの脅しだとしても、無かったことにはできなかった。

すでに、平穏な日常は壊されてしまったのだから。

最初のうち、夫は非常に無口だった。

沈黙に耐えられなくなった私は、一人でぺらぺらと話し始めた。

その中で、手紙のことについても訊ねた。

「どうやって住所を知ったの?」

「これからどうするつもりなの?」

夫は面倒くさそうに、ポツリポツリと答えるだけだった。

夫の場合、大声で怒鳴るのと同じくらい、低く、言葉少なに話すときが怖い。

私は身を強張らせ、逃げ出したい衝動に駆られた。

「〇〇駅なんて、(子ども)のことをちゃんと考えてるのかよ」

唐突に言われたその一言に、すぐには答えを返せなかった。

学校のことだろうと予想はついたが、私たちが試行錯誤しながらやっと乗り越えてきた問題だった。

不安な気持ちでそれを伝えようとした瞬間、

「こういうのが虐待って言うんじゃないか?!」

低く鋭い声が突き刺さり、鼓動は一気に早くなった。

強い言葉で責められるとパニックになってしまう――その癖は、まだ抜けていなかった。

私たちの静かな戦い

静寂の中の記録 インターフォンを押すと、すぐに室内に通された。 そこはかつて私たち家族三人で暮らした場所。 ほんの数か月前までは、そこに私たちが確かに存在していたはずなのに――。 懐かしさは微塵も感じられなかった。 立った瞬間に胸が締め付けられ、息が詰まりそうになる。 帰りたい―...