長引く話し合い
その日、義両親は何が何でも私たちを連れ戻すつもりで来たのだと思う。だけどなかなか折れないから、業を煮やして
「(子ども)ちゃんの気持ちを確認させて」
と言い始めた。
夫と話させるよりは百万倍マシだが・・・。
それでも簡単にOKできるものではない。
と言うのも過去には連れ去りもあり、胃の痛くなるような日々を過ごした。
もう二度と子どもと暮らせないのではないか。
そんな不安から、全ての計画を投げ出して夫に謝ってしまおうかと考えたほどだ。
だけど先輩がそんな私を止めてくれた。
義両親にとってうちの子が生き甲斐だということも分かっていたから、私も悩んだんだけど。
それ以上に警戒する気持ちの方が強かった。
最初はその場所に呼び出して欲しいと言われ、
「一人で来られる距離ではないですし・・・」
と答えたら、
「そういえば今日は一人でお留守番しているの?」
と言われ、『藪蛇だったかも』と冷や汗。
うちの子は寂しん坊で一人では留守番したがらないことを義両親はよく分かっていた。
それでちょっと怪しんだようで、
「誰かが見てくれているの?」
と聞かれてしまい、更に冷や汗が・・・。
もちろん先輩の家にお世話になっていることは知らない。
しかも、その日『調査会社を使って居所を調べても良いんだよ?』ということを匂わされており、非常に焦った。
しどろもどろになりながらも、何とかこの場を切り抜けなければと、
「最近はずい分しっかりしてきて。一人でお留守番してくれるんですよ」
なんて説明したけど、納得していなかった。
色んな理由をつけて呼び出そうとしており、時計を見ながら
「このままここで晩御飯にしよう。外食と言えば喜んで来るんじゃないか?」
とお義父さんから言われた時には、もう上手い言い訳が浮かんで来ず、
「いえ、あの・・・」
と言葉が続かなかった。
そこに畳みかけるように、
「途中まで迎えに行くから」
と言うので、私は無い頭をフル回転させて必死に言い訳を考えた。
「連絡手段が無い」という理由で断り、急いで帰宅
焦っている時というのは重要なことを見逃しているものである。
その時の私も肝心なことを見過ごしていた。
慌てながらも必死に言い訳を探していた時、隣のテーブルの子に目が留まった。
うちの子より少し大きいかな?という感じの子で、何やら携帯を操作していたのだが。
それを見て、ふと思い出した。
そう言えばうちの子は『携帯を持っていない』という設定になっていたことを。
夫からも散々持たせるように言われたのだけれど、
「まだ早い」
と一蹴した。
それがこんなところで役に立つなんて。
夕飯のことを持ち出されたことは幸いだった。
こちらにも早く帰らなければならない理由ができた。
連絡のつかない子どもを呼び出すこともできないから、すぐに帰って夕飯の準備をしなければ。
そういうストーリーにして、お開きを願い出た。
義両親も子どもが困ることは避けたかったみたい。
それで、あっさりと終了した。
そういう所が夫とは違う。
夫の場合、子どもが困ろうがどうしようが自分のことを優先させる。
『そこに愛情はあるのかい?』と聞きたくなるシーンが何度もあった。
帰り道、やっと解放された安堵と、居場所を調べられてしまうかもしれない不安と。
色んな感情がごちゃ混ぜになり、不安定な気持ちのまま家路を急いだ。
