「お昼を食べに行こう」にも反応しない子ども
重苦しい空気の中、義両親は妙に明るいテンションで話し続けていた。
私がこの場をどうにかしなければ。
なぜか、そんな責任を一人で背負っていた。
けれど、
どれだけ言葉を選んでも、
空気は少しも軽くならない。
むしろ、重く沈んでいくばかりだった。
このままでは、心がもたない。
そう感じ始めた頃、
「外に昼飯、食べに行くか」
と、お義父さんが言った。
普段なら、遠慮したいところだ。
でもその時は、
「そうですね。行きましょう」
と、ほとんど反射的に答えていた。
狭い部屋から出られる。
その一心だった。
ほっとしたのは、
きっと子どもも同じだと思っていた。
けれど――
「ご飯に行こう」
という言葉に、
子どもはまったく反応しなかった。
部屋の隅で、
ただ固まったまま。
その様子に、義両親の表情が変わる。
“心外だ”と言いたげな、不機嫌な顔。
空気がまた、ひりついた。
子どもの気持ち
私は慌てて子どものそばにしゃがみ込み、
顔を近づけて小声で聞いた。
「ご飯、行きたくないの?」
子どもは、
小さくコクリと頷いた。
それでも義両親は、
すっかり出かける気になっている。
何か買ってきて家で食べる、
そんな選択肢も頭をよぎった。
でも、それではきっと納得しない。
これまでのこともある。
せめて今だけは、
子どもの気持ちを守りたかった。
「どうする?
やめておこうか」
そう言いかけた、その時。
背後から、怒鳴るような声がした。
「ほらっ、行くぞ!」
体がビクッと跳ねた。
大声は、本当にだめだ。
夫の怒鳴り声を思い出してしまう。
子どもは、
軽く震えていた。
壁に身体を押しつけるようにして、
小さくなっている。
それなのに――
お義父さんは、
その手首を強くつかんだ。
そして、
無理やり、引っ張った。
咄嗟に止めようとして、
私も子どもの腕をつかんだ。
狭い部屋の中で、
子どもの手首を引き合う形に・・・。
その細い手首が、
みるみる赤くなっていく。
それを見て、
お義父さんはようやく手を離した。
けれど、空気はもう壊れていた。
私たちはそのまま、
ほとんど引きずられるように
ファミレスへ向かった。
それは決して、家族団らんなどではない。
ただ、
逃げ場のない時間の始まりだった。
