社員全員がベースダウン
夫の会社が危ないと聞いてから程なくして社員たちの給与が引き下げられた。能力いかんに関わらず皆がベースダウンした。
状況が状況なだけに仕方の無い選択だったのだと思う。
この時ばかりは夫も納得したようで、文句も言わず受け入れた。
会社としては、ひと先ず社員たちに少しずつ協力してもらってしのごう、という戦法だろう。
これで乗り越えられれば良いなぁと、部外者の私も祈るような気持ちだった。
万が一夫が失職したら、その影響は非常に大きい。
離婚した後に養育費を貰えなくなるとかそういうレベルの話ではない。
離婚自体がとん挫しかねなかったため、その動向が常に気になっていた。
ベースダウンが実施されたと言っても私よりはるかに高い給与をもらっていた夫。
しかも出費も限られているという余裕のある生活。
精神的に追い詰められるような状況でも無かったはずなのに・・・。
この一件で弱気になったのか、
「このままでは俺は野垂れ死にだ!」
などと縁起でもないことを言い出し、ネガティブな発言が増えた。
いちいち大げさな夫を本気で相手にするのも疲れるので、
「大丈夫だよ。これを乗り越えればまた良いことがあるんじゃない?」
などと表面的なフォローをしていたのだが、そんな私に強烈な不満を抱いたようだ。
親身になってくれない、と言いたかったのだろうけど。
そう言われても、もう心配し尽くしたんだよ。
それまでに散々振り回されてきたから、不安だ不安だと騒ぐ夫をどこか冷めた目で見ていた。
自業自得だと思っていたことも確かだ。
あんな仕打ちをしたのだから少しくらい罰が当たったっておかしくない、と。
そんな風に考えているくせに、失職されたら困るとも思っていて。
この頃は自分の立ち位置が上手く定まらなかった。
「お前に養ってもらうしかない」
夫はプライドが非常に高かった。
日常的に私のことを蔑み、侮辱するような発言をしていた。
それなのに、会社の問題が持ち上がったら急に
「お前に養ってもらうしかない」
などと言い出した。
普段の夫からは想像もできないような発言だ。
バカも休み休み言って欲しいところだが、ここで強く拒めないのが私の弱いところだ。
内心は憤りつつも、やんわりとした表現でしか拒否できなかった。
いつも自分に都合良く受け取るのも夫の特徴であり、この時も強く言わないのを良いことに
「お前だって本当は家族元通りが良いんだろ?」
と言い始めた。
そんな訳ないじゃない!
唖然とする私に対して更に、
「ずいぶん自由にやったみたいだから、そろそろ気が済んだんじゃないか?」
と、まるで戻ることが既定路線のような言い方をした。
本当に何も分かっていないのだ。
もう戻らない覚悟をしたことも伝えたはずなのに。
そういう都合の悪いことはスルーするのもいつも通り。
夫と話していたら、あの苦しかった生活が鮮明に思い出された。
今日を無事に過ごすことしか考えられなかったあの生活を。
こんな人だと見ぬけていたら結婚なんてしていなかったのに、あの頃は尊敬できる相手だと思い込んでしまった。
モラハラにも気づけず、頼りになる人だと思ってしまった。
そういう人との離婚がこんなにも大変ということも、私は知らなかった。
