義両親の願い
いきなりの土下座から始まった話し合いだったが・・・。『(私)の気が済むまで謝る』というお義父さんを何とか説得し、席についてもらった。
だいたい土下座なんてされても全く嬉しくない。
むしろ罪悪感を抱かされるだけだ。
それなのに話し合いの最中に何度も頭を下げようとしてくるから、そのたびに慌てて制止した。
そんなことをされたら、こちらが悪いことをしているような気持ちになってしまう。
だから本当に止めて欲しいのに。
頭を下げることが『正しい』と思っているようで困惑した。
こういう時、お義父さんは頑なだ。
『止めてください』と言っても聞き入れてくれない。
『自分は正しいことをしているのだから、それを受け入れない方が悪い』という感じになる。
ハッキリ言って謝罪の押し付けだと思う。
少なくとも私はそんなことをされても許そうという気持ちにはなれなかった。
それでずっと黙っていたら今度はイライラし始めて、
「どうしたら許してくれるんだ!」
と詰め寄られ、更に困惑。
何を言われても私の心には響かないのに、ごり押しすれば何とかなると考えているのがみえみえだった。
それまで押し切られることが多かったから、こういう考えになっても不思議ではない。
でも、夫のことはそう簡単な問題ではないのだから、そんな軽い捉え方はしてほしくなかった。
家を出てから自分の頭で考えるようになり、あの生活がどれほどおかしかったのかをハッキリと自覚した。
異常だと思うような生活に自ら戻るはずもなく、押し付けられても困るというのが本音。
義両親は義両親で、夫のことを持て余してどうにもできなくなったのだろう。
それと、やはり我が子だから心配というのもあったと思う。
面倒見切れないけど放置もできない。
それで、まだ籍のつながっている私に依頼するしか無かったのでは、と推測した。
息子が安心して暮らせる環境を作ってあげたい。
そんな願いを込めて話し合いに臨んでいるような気がした。
受け入れられない提案
義両親の要求は明確だった。
家に戻ってほしい。
ただ、それだけ。
でもそれは私たちにしてみれば全てがひっくり返るくらいの大きな決断だった。
万が一戻れば、もう二度と出られないということも分かっていた。
だから既に返事は決まっていた。
夫は警戒心の強い人なので同じことが起こらないように対策をするだろう。
もしかしたら、逃げ出そうという気持ちが無くなるくらいにメンタルを折ろうとするかもしれない。
そう考えたらゾッとした。
親として子どもを心配する気持ちは分かるけど、どうしても受け入れられない。
いつもは傷つけたくなくてあいまいな表現を選ぶのだが・・・。
この時はきちんと伝えないとダメだと思い、明確な言葉で拒絶の意思を示した。
聞いた瞬間のお義父さんの表情は今でも忘れられない。
苦虫を嚙み潰したような顔というのは、まさにあのような表情を言うのだろうと思った。
きっと想像していた答えとは違っていたのだろうが、私も譲歩できなかった。
そもそもこの件に関しては、間を取って落としどころを見つけるということもできない。
戻るか戻らないか、ただそれだけだ。
返事を聞いた途端、二人は気落ちした様子で何度も、
「やっぱりダメなのか」
と言ってきた。
その日の話はそれで終わりだと思っていたら、引き下がる様子もなくそのまま1時間以上も説得される羽目になった。
