大人になっても大のぬいぐるみ好き
幼い頃からふわふわした物が大好きだった。何か悲しいことがあっても私を癒してくれた。
最初は両親に買ってもらうことが多かったんだけど。
中学生くらいからは自分でも買うようになり・・・。
一人暮らしをし始めた時にはお気に入りの物をいくつか持って行った。
結婚してからも相変わらず好きだったんだけど、夫の冷めた視線を気にしてあまり触れなくなった。
でもさ、辛い時にはどうしても触れたくなるんだよね。
私たちの結婚生活は辛いことの連続だったから、心の中では常に求めていた。
だけどそれを表には出さず、いつも平気なフリをしてやり過ごした。
夫は私たちの大事にしている物を壊そうとする。
もしそれほどまでに大事にしていることが分かったら何をされるか分からない。
だから、大事じゃないフリをした。
そうは言っても態度には出てしまうから夫は気づいていたかもしれない。
勘の良い人なので隠し事をするにも一苦労で離婚の時も大変だった。
その癒しのぬいぐるみ達はいつも部屋の隅っこにあって、寝る時にこっそり持ってきたりしていた。
触れていると幸せな時を思い出すことができる。
穏やかな気持ちになって心が満たされていくのを感じた。
眠れない時にも活躍してくれた。
ギュッと抱きしめるとなんだか眠くなってきて、自然と寝入ることができるのだ。
私にとっては特別な存在だったのだが、夫には理解できなかったようだ。
ある時、ぬいぐるみの頭をなでなでしているのを見られてしまったことがあった。
そうしたら夫は無表情な顔で、
「意味わかんねー」
と言った。
ごみ箱に捨てられたぬいぐるみ達
子どももぬいぐるみ好きに育った。
これは明らかに私の影響だと思う。
夜はお気に入りのいくつかを布団に持っていき、顔の傍に置いて寝ていた。
それが今でも習慣になっているが、夫と一緒に暮らしていた時にはそれすら許されなかった。
子どもがテストで間違ったとか夫が出した課題をスムーズに解けなかったとか。
そんな理由で怒ることがあった。
そういう時は決まって子どもの大事にしている物を捨てようとした。
例えばお気に入りのノートや文房具、手袋などが捨てられた。
捨てると言ってもごみ箱に投げ入れるだけだから、ごみの日までずっと目についてしまって尚更悲しい。
子どもだって本当は捨てたくなんかない。
だけど、ごみ箱から拾おうとすると夫から怒られるから黙ってじっと見ていた。
そもそも生ごみの上などに捨ててしまうから拾ったところでもう使えない状態のことが多い。
子どもにしてみれば、それでも拾いたかったんだろうけど。
夫から監視されていたので我慢していた。
ぬいぐるみも例外ではなかった。
ある時、怒った夫がぬいぐるみを持って投げつけ、それでも気が済まなかったのかごみ箱に放り投げた。
しかも、わざわざキッチンの方のごみ箱に。
生卵の殻なんかが入っていて、どんな状態になるかは容易に想像ができた。
子どもは大泣きして取り出そうとしたが、夫がその手を叩き
「やめろよ!」
と言ったので取り出すこともできず、しばらく呆然とその前で立ち尽くしていた。
あまりにも酷いと思って私も夫の制止を振り切って取り出そうとしたのだが、
「やめろって言ってんだろ!」
と怒鳴られて壁際に押し付けられた。
どうしよう。
ごみの水分でどんどん汚れちゃうよ。
気持ちは焦っているのだが、力でねじ伏せられてしまいどうにもできない。
その後夫が昼寝をした隙に急いで確認したのだが、もうべったりと汁気で汚れていた。
洗っても落ちそうにないし、洗わせてくれるはずもない。
二人で泣きながら、
「残念だけど、もう駄目だね」
とぬいぐるみにお別れをした。
今思い返してみると、あれは私に対しての嫌がらせでもあったんじゃないかと思う。
私がぬいぐるみ好きなことを快く思っていなくて、ああいうことをしたのではないかと。
今は二人とも好きなものを買えるし、寝る時には相変わらずお気に入りに囲まれている。
隣で幸せそうな顔で眠っている子どもを見ると本当に幸せ。
全てを奪われた私たちが再生するのは簡単ではなかったけど、何とかここまで来れたことに感謝している。