怯える子ども
荷物を部屋の隅に置きながら、私は必死になって考えた。
どうすれば、
この場をやり過ごせるだろう。
そんなことばかり考えていた。
子どもは明らかに怯えている。
表情は硬く、
少し青ざめていた。
私も同じ気持ちだった。
だけど、逃げることはできない。
何か方法はないか。
考えてみても、良い案は浮かばなかった。
というより、
夫に対して
『何もしてあげたくない』
それが本音だった。
どうして、
私たちを傷つけた人を
もてなさなければならないの?
連絡もせずに急に来て、
一体どういうつもり?
憤りの気持ちが強かった。
それでも、
追い返すことはできない。
私は仕方なく、
声を掛けた。
「これから夕飯作るんだけど、
一緒にどうかな」
本当は、
今すぐ帰って欲しかった。
だけど、
そんな気配はない。
私から声を掛けるしかなかった。
ちょっと違和感のある空気
部屋に入った瞬間から分かっていた。
夫は明らかに不機嫌で、
何かに怒っていた。
ずっと腕組みをして、
こちらの問いかけにも返事をしない。
その様子を見て、
緊張感がさらに増した。
野菜を刻む手が震える。
子どもは部屋の隅で、
ランドセルを開けていた。
次の日の準備をしている。
いつもなら、
言われるまでやらない。
だけど、
この空気の中では、
何かしていないと落ち着かなかったのだと思う。
その姿を目の端で見ながら、
私は夕食の準備を続けた。
夫は意外と好き嫌いが多い。
メニューを見て、
へそを曲げたらどうしよう。
勝手に押しかけて来た夫に、
そこまで気を遣う必要なんてない。
それなのに、
私は機嫌を損ねないよう
必死になっていた。
しばらく無言の時間が続いた。
食材を煮込み始めた時だった。
夫が私に向かって言った。
「ちょっと、こっちに来い!」
その瞬間、
空気が変わった。
緊張感が一段階上がる。
頭が真っ白になった。
