帰って欲しい
82点のテストは、粉々に破られた。
そして、
その切れ端がテーブルの上に落ち、
紙吹雪のように舞っていた。
夫は、
いつもの“あの表情”だった。
お前たちに罰を与えてやっている。
そんな顔だった。
その異様な光景を見た瞬間、
もう何も言えなくなった。
『子どもが頑張った』
という事実は消えない。
私が覚えていればいい。
そんな言い訳のような言葉が、
頭に浮かんでは消えていく。
気づくと、
子どもは硬い表情のまま、
テーブルの上を見つめていた。
私は咄嗟に嘘をついた。
「買い忘れた物があるから、
これから行ってこなくちゃ」
こんな風に言われたら、
普通の人なら帰るだろう。
でも夫は、
まったく動こうとしなかった。
どっかりと座ったまま、
子どもに言う。
「じゃあ、パパと待ってよう」
子どもは、
思わぬ言葉に後ずさりした。
それだけは避けなければ。
私も必死だった。
「一緒に行ってくる。
買ってあげたい物もあるから」
もう帰ってよ。
この部屋から出て行って。
そんな思いが込み上げる。
必死に理由を並べ、
二人で出掛けることを伝えても、
夫に帰る気配はなかった。
面と向かって
『帰って』
とも言えない。
だから少し離れた場所から、
子どもに声を掛けた。
子どもも遠慮がちに言う。
「ママと一緒に行こうかな」
自分が選ばれなかった。
その事実が、
夫を傷つけたのかもしれない。
やんわりとした拒絶の言葉を聞いた瞬間、
夫は無言で立ち上がった。
夫の暴挙
立ち上がった夫が向かった先は、
子どものランドセルだった。
おもむろに開け、
中からノートを取り出す。
2冊。
いや、
3冊だったかもしれない。
それをテーブルの上へ、
バンッと置いた。
その音に、
体がビクンと跳ねた。
夫が怒っている時は、
怒鳴り声だけでも怖い。
それなのに、
さらに大きな物音を立てる。
何が飛んでくるか分からない。
物を壊されるかもしれない。
それが恐怖だった。
その時、
私たちの目の前で
信じられないことが起きた。
夫は、
子どものノートを1冊手に取ると、
真ん中あたりから破り始めた。
気づけば、
ノートは真っ二つになっていた。
しかも、
破いた後は決まって同じ言葉だ。
「お前はきちんと
先生の話を聞いてるのかよ!」
「何で、
これしか書かれてねーんだよ!」
「そんなノート、
要らねーよな!」
そんなわけない。
ノートが要らないなんて、
あるはずがない。
『俺がルール』の夫は、
「大した内容の書かれていないノートなんて、
持っている意味はない」
そう言い放った。
子どもは、
嗚咽を漏らしながら泣いていた。
それに対して夫は、
「うるせー!!!」
と言い放った。
