2026年6月11日木曜日

訪問の理由

消えなかった戸惑い

玄関で頭を下げるお義父さん。

その横ではお義母さんが、

言葉を探すように立っていた。


そして、

二人は深く頭を下げた。


突然のことに驚き、

私は何度も

「頭を上げてください」

と言った。


その時、

ふと思った。


これは一体、

どういう風の吹き回しなのだろう。


これまでにも、

謝罪されたことはあった。


だけど、

あれは夫を擁護するためのものだった。

少なくとも、

私にはそう見えていた。


今回も同じなのかな。


そんな考えが

頭をよぎる。


疑うべきではないのかもしれない。

それでも、

すぐには信じられなかった。


二人は部屋にも入らず、

玄関先で

「本当に申し訳ないことをした」

と繰り返した。


まずは話を聞かなければ、

何も分からない。


気は進まなかったけれど、

部屋へ招き入れた。


腰を据えて話すことにし、

子どもには隣の部屋へ行ってもらった。


「一緒に聞きたい」

と言われたけれど、

小学生には聞かせられない話もある。


もしかしたら、

過去のつらかった出来事を

思い出してしまうかもしれない。


重い話になることだけは

分かっていた。


だから、

子どもには

「隣にいてね」

と伝え、

大人三人で話をすることにした。


知らされた現実

二人は、

とても疲れていた。


目の下にはクマがあり、

表情にも覇気がない。


その頃、

夫からの連絡は減っていた。


といっても、

三週間ほどだけれど。


それでも私は、

少し落ち着いたのだと思っていた。


これまでを思えば、

穏やかな時間だった。


それなのに、

なぜ今なのだろう。


そう思いながら、

話の続きを待った。


けれど、

理由はすぐに分かった。


夫が、

何かを起こそうとしていた。


私を相手に

裁判を起こす。


そんな話までして、

息巻いていたらしい。


義両親は不安になった。


息子が何をするか分からない。

嫁や孫に何かあったら――。


そう考えたのだという。


相変わらずだと思ったのは、

私による虐待を

でっち上げようとしていたことだ。


私が折れないから。


元に戻るのは難しい。

円満離婚も望めない。


そこまでは、

理解したのだろう。


そして夫は、

親権を取って、

子どもと義両親と四人で暮らす。


そんな話も、口にしていた。


義両親は、

そのことを知らせに来てくれた。


何かあってからでは遅い。

そう思ったのだろう。


私は話を聞きながら、

夫の姿を思い浮かべていた。


思い通りにならないことに、

怒っている。


ただ、

それだけはよく分かった。


だけど、

ここで怯むわけにはいかない。


せっかく、

ここまで来たのだから。


もう少しで、

自由に手が届く。


「私たちもできる限り止めるけれど」


そう前置きした上で、

二人は


「くれぐれも気を付けてほしい」


と言った。


けれど、

できることは限られている。


せめて、

子どもだけは守りたい。


でも、

親でさえ止められないのに、

私に何ができるのだろう。


その日から、

警戒する毎日が始まった。


目を覚ましている間は、

ずっと気を張っていた。

訪問の理由

消えなかった戸惑い 玄関で頭を下げるお義父さん。 その横ではお義母さんが、 言葉を探すように立っていた。 そして、 二人は深く頭を下げた。 突然のことに驚き、 私は何度も 「頭を上げてください」 と言った。 その時、 ふと思った。 これは一体、 どういう風の吹き回しなのだろう。 ...