繰り返し使われたフレーズ
『お前はバカだ』初めてそう言われたのは、
付き合い始めの頃だった。
いきなり言われれば、
怒る人もいると思う。
でも私は、
自分に自信がなかった。
だから、
『え?どうしよう…』
と戸惑ってしまった。
自分はダメだ。
何をやっても中途半端だ。
そんな思いが、
もともとどこかにあった。
だからこそ、
『やっぱり見抜かれたのかもしれない』
とすら思ってしまった。
嫌われたくなくて、
彼の前ではいつも取り繕ってばかり。
けれど、
良く見せようとすればするほど、
うまくいかない。
ちょっとした失敗が、
ひどく怖くなっていった。
またバカだと思われる。
その恐怖で、
言葉も行動もどんどん不自由になっていった。
それでも嫌われたくなくて、
必死に“普通”を演じる毎日。
気づけば、
彼の言葉がすべてになっていた。
結婚してからも、
その構図は変わらなかった。
少しでも逆らえば怒られ、
そのたびに自己嫌悪に陥る。
もっと頑張らなきゃ。
そう思うほど、
少しずつ夫の言いなりになっていった。
抜けない思考の癖
夫からは、
ずっと否定され続けてきた。
だから別居をしても、
すぐに自分を変えることはできなかった。
いざ向き合うと、
意見を言うことすらできない。
お前はバカだ。
何をやってもダメなんだから自覚しろ。
そんな言葉を浴びてきた私が、
子どもを一人で育てていいのだろうか。
そう自問自答しながら、
答えを探す日々が続いた。
その間も夫からは、
言葉が途切れることはなかった。
お前は間違っている
いつか後悔する
お前のためを思って言っている
今ならまだ戻れる
そんな言葉に、
何度も揺さぶられた。
言われれば言われるほど混乱して、
何が正しいのか分からなくなる。
ただ一つ確かなのは、
夫と離れてから、
ようやく子どもの笑顔が
見られるようになったことだった。
それだけは、
はっきりしていた。
それでも、
揺さぶりが続くたびに心は乱れた。
「お前の思い込みが、
子どもを不幸にしている」
その言葉を、
一週間以上、引きずることもあった。
そういう状態だったから、
別居が長引いても、
夫には余裕があったのだと思う。
一方で私は、
あることを夜の習慣にした。
寝る前に自分の気持ちを確認し、
子どもと未来の話をする。
その時間だけが、
かろうじて自分を保つ支えになっていた。
