2026年6月2日火曜日

ドアの向こうの気配

部屋に灯りがついていた

外食から帰り、

少し離れた場所から部屋を観察した。


流石にもう居ないだろうとは思った。


自分たちのペースを乱されるのが

嫌いな人たちだからだ。


それでも、

自分の目で確認するまでは

安心できなかった。


建物の前まで来て、

ふと部屋を見上げた。

真っ暗な部屋を想像して。


それなのに――。

部屋の灯りがついていた。


明るい部屋が見えた瞬間、

私たちは慌てて身を隠した。


子どもの手を引き、

息を潜める。


これだけ離れていれば

見つかるはずがないのに。


思わず息を止めて、

部屋の様子をうかがった。


その間、

子どもは不安そうに

私の背中にしがみついていた。


そのまましばらく待ったが、

十分経っても変化はない。


離れているから物音は聞こえず、

ただ部屋から出て来るのを

待つことしかできなかった。


その時、

近所の人が通りかかった。


隠れて建物を見上げている私たちは、

どう見ても不審だったと思う。


「あら、○○さん」


声を掛けられ、

私は曖昧に笑って挨拶を返した。


この方はかなりのおしゃべりだ。

つかまれば、

根掘り葉掘り聞かれるだろう。


説明するのも難しい。


私はその場を切り上げ、

部屋へ向かうことにした。


自分の家なのに

このまま外に居続けるわけには

いかなかった。


だけど、

部屋の前まで来ても

やはり躊躇してしまう。


このドアを開けたら、

きっと彼らがいる。


私は一体、

どうすれば良いのだろう。


子どもも不安そうで、

本当は入りたくなかった。


それでも、

しばらくドアの前で立ち尽くした。


息を潜めて聞き耳を立て、

誰がいるのか確かめようとする。


ところが、

数分経っても誰の声も聞こえない。


テレビもついていないようで、

シンと静まり返っていた。


電気が点いているのだから、

誰かいるはずだ。


それとも、

遅くなったから

もう寝てしまったのだろうか。


布団は二組しかない。


もし彼らが使ってしまったら、

私たちはどこで寝れば良いのか。


色々なことが頭を巡り、

余計に身動きが取れなくなった。


本当はUターンして、

どこかへ逃げてしまいたかった。


けれど、

子どもはもう眠そうで、

あくびを繰り返していた。


外に泊まるお金もない。


仕方ない。


私は意を決して、

ドアノブに手を掛けた。

ドアの向こうの気配

部屋に灯りがついていた 外食から帰り、 少し離れた場所から部屋を観察した。 流石にもう居ないだろうとは思った。 自分たちのペースを乱されるのが 嫌いな人たちだからだ。 それでも、 自分の目で確認するまでは 安心できなかった。 建物の前まで来て、 ふと部屋を見上げた。 真っ暗な部屋...