誰も居ないはずの家に灯り
あの日は、いつも通り塾に子どもを迎えに行った。
あとは家に帰るだけ。
本当に、いつもと同じ流れだった。
だが、
家に着いたその瞬間、
私はすぐ異変に気づいた。
部屋に灯りがついていたのだ。
遠くから見ても分かる。
誰かいる。
これが、
義両親ならまだ良い。
問題は、
夫だった場合だ。
だが、
ドアを開けるまでは分からない。
試しに義両親へ
電話をかけてみようか。
そんな考えも浮かんだ。
けれど、
傍に夫がいたら、
「何の用事だ」と
根掘り葉掘り聞かれるだろう。
義両親のうち、
どちらかだけが部屋に居る可能性もある。
そう思うと、
迂闊に電話もできなかった。
私はしばらく、
遠くから部屋を見つめていた。
どうしたら良いのか。
答えは出ない。
その時だった。
子どもが、
「お腹空いたね」
とぽつりと言った。
その一言で、
私は現実に引き戻された。
そうだ。
食材を持っていた。
このままでは、
食材がダメになってしまう。
本来なら、
食材を諦める選択もあったのかもしれない。
だけど、
それもできなかった。
財布の中には
千円ちょっとしかない。
外でご飯を食べる余裕なんて、
なかった。
それどころか、
食材をダメにしてしまったら、
今晩食べるものにも
困ってしまう。
私たちは、
決断するしかなかった。
やはり夫だった
思い切って、
家に入ることに決めた。
怒らせなければ大丈夫。
そう自分に言い聞かせる。
だが、
やはり恐怖で身がすくむ。
子どもも、
何も言わなくても事態を察していた。
「パパ来てるのかな」
「おじいちゃんか、
おばあちゃんなら良いね」
と言った。
開錠し、
恐る恐るドアを開けた私たち。
その瞬間、
リビングで座っている夫の姿が見えた。
ああ、
やっぱり・・・。
夫かもしれない。
そんな予感はしていたのだ。
本当は、
飛び上がるほど驚いていた。
それでも、
それを見せる訳にはいかない。
私は平静を装い、
声を掛けた。
「来てたんだ~?」
まるで、
何とも思っていませんよと
アピールするみたいに。
万が一、
「何で来てるの?」
などと言おうものなら、
猛烈な怒りをぶつけられる。
それが分かっていたから。
私は笑顔を作った。
本心とは、
正反対のままで。
