夏休みの後半戦
あの年の夏休み、前半は、思いのほか穏やかに過ごすことができた。
予想外の夫の体調不良。
子どもの図書館通い。
条件としては、悪くなかった。
ただ、どこかで分かっていた気がする。
この静けさが、長くは続かないことを。
問題は後半だった。
案の定、反動はきた。
前半の分を取り戻すように、
後半に圧がかかり始める。
実に、夫らしい動きだった。
これはモラハラの中でもよくある形で、
相手がどこにいようと電話をかけてくる。
出るまで、何度でも。
せっかく外出していても、
着信に気づいた瞬間に気持ちは沈んだ。
夫からの電話は、
過去の記憶と直結している。
怒鳴り声やため息が、
そのまま蘇るような感覚だった。
少ない予算でやりくりした外出も、
どこか壊されていくように感じる。
腹立たしさというより、
じわじわと削られていく感じだった。
電話が鳴るたびに、意識が引き寄せられる。
見なければいい。
そう思っていても、表示を確認してしまう。
「やっぱり夫か」
その瞬間、胸の奥が少し重くなる。
無視をすれば済む話だった。
けれど、その後に待っている反応を知っていた。
結果として、無視ができない。
それが積み重なって、
数分おきに確認するようになっていった。
人混みの中では本来気にならないはずの通知音も、
妙に気に障るようになる。
けれど夫は、そういう状況を考慮しない。
いつの間にか、
携帯を何度も確認するのが癖のようになっていた。
通知が鳴っていなくても、
画面を開いてしまうことがあった。
遊園地のチケット
ある日、突然連絡が来た。
「遊園地のチケット、取ったから」
一瞬、意味が分からなかった。
事前の相談はない。
日時の確認もない。
そのまま、
「待ち合わせ、どこがいい?」
と続く。
すぐには返事ができない。
驚きより先に、現実味がなかった。
夫だけでなく、義両親も来るという話だった。
せっかくの夏休みだから一緒に過ごしたい。
そういう理由らしい。
その流れで、チケットはすでに取られていた。
費用は義両親が出したという。
「当日は、そのまま来ればいいから」
夫は当然のように話を進める。
まるで、
こちらが感謝する側であるかのような口ぶりだった。
断る余地はない。
一方的に話が決まり、
電話はそこで切れた。
しばらく、思考が止まる。
少しして、子どもに伝えた。
その瞬間、
子どもの表情が固まった。
喜ぶと思っていたわけではない。
それでも、その反応は予想以上だった。
子どもは何も言わない。
ただ、しばらく黙ったまま。
動こうともしない。
その姿を見て、
胸がざわついた。
