電車の時間も気になり、焦る私
強く言えないまま、ただ時間だけが過ぎていく。
時計の針の音が、
やけに大きく感じた。
この人は、
はっきり言わなければ動かない。
分かっているのに、
その一言が喉に引っかかって
出てこなかった。
子どもは、
眠そうに目をこすりながら、
うつらうつらし始めていた。
ただ眠いだけじゃない。
極度の緊張状態が続くと、
急に睡魔に襲われることがある。
以前、
虐待を受けた後も、
こんなふうだった。
その日は、
パパが怖くて、
神経がすり減っていたのだと思う。
必死に我慢していたけれど、
限界が来たのだろう。
そこまできて、
私もようやく腹を決めた。
心が壊れそうな子どもが
目の前にいるのに、
何もしないなんて。
そんなの、
母親としてどうかしている。
そう自分に言い聞かせ、
夫の方を向いた。
「そろそろ私たちは寝る時間だから。
今日はありがとう」
ありがとう。
その一言は、
波風を立てないための保険。
少しでも怒らせないように。
この場で機嫌を損ねれば、
余計に長引くだけだ。
むしろ、
意地になって帰らなくなる。
そう思って、
必死に角を丸くした。
驚きの展開
普通なら、
「そろそろ寝る時間だから」
と言われれば、帰るだろう。
ところが夫は、
何でもない顔で、
「そうか。俺はどこに寝るかな」
と言った。
一瞬、
意味が分からなかった。
でも次の瞬間、
泊まるつもりなのだと悟り、
背筋が冷えた。
焦った私は、
「布団は2枚しかないよ」
と付け加えた。
義実家に戻るとき、
夫は自分の布団を持ち帰った。
「俺が買った物だから」
そう言って。
正直、
せいせいしていた。
夫の物が大量に残る部屋で、
心なんて休まらない。
布団が無ければ、
さすがに帰ると思った。
けれど夫は、
急にこちらへすり寄り、
「2枚あれば、くっつければ何とかなるだろ」
と笑った。
思わず後ずさる。
「ちょっと厳しいかな」
そう言いながら、
できるだけ距離を取った。
近い。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
本当に、
心の底から気持ち悪い。
散々、
私たちを傷つけてきた人が、
どうしてそんなことを言えるのか。
体が拒絶していた。
隠そうとしても、
隠しきれない。
それが伝わったのか、
「仕方ない、今日は帰るか」
と夫は言った。
あの時、
ほんの少しだけ
傷ついたような顔をした。
冗談じゃない。
私たちは、
その何万倍も傷ついてきた。
そんなことで
傷ついたなんて、
言わないで。
心の中で、
強く、強く叫んだ。
