2026年3月27日金曜日

帰れない理由

突然の訪問

その日の気分は、悪くなかった。


久しぶりに外に出て、

美味しいものを食べて。


ありふれた、小さな幸せ。

それを、ただ味わっていた。


壊したのは、

一本の電話だった。


ポケットの中で、携帯が震える。

気づいた瞬間、嫌な予感がした。


画面を見たら、やはり、夫だった。


出たくはない。


でも、出なければ

何をするか、分からない。


しぶしぶ、

応答ボタンを押した。


その瞬間。


「お前ら、今どこにいるの」


言葉に、詰まった。


お出かけ中だと伝えたら、

きっと嫌味を言われる。


それだけでは、終わらない。


余裕があると思われて、

当てにされるかもしれない。


頭の中で、

いくつも言い訳が浮かんでは消えた。


どれも、正解に思えなかった。


「外にいるよ」


それだけ、伝えた。


場所は言わない。


近くのスーパーかもしれないし、

ドラッグストアかもしれない。


曖昧なまま、

やり過ごそうとした。


終わらない追及

家にいないと分かったのなら、

それで終わるはずだった。


それなのに。


夫や義両親は、

待つつもりでいるらしい。


「あと、どれくらいかかるか」


と、何度も聞かれた。


少しずつ、

追い詰められていく。


これ以上は無理だと思って、


「実は、〇〇駅の方にいる」


そう伝えた。


すぐには帰れない距離。


どんなに急いでも、

三十分はかかる。


その言葉で、

諦めてくれればよかった。


けれど。

やはり、怒った。


遊び回っているかのように言われ、

違う、と否定すると


「じゃあ何しに行ったんだよ」


と問い詰められる。


逃げ場が、ない。


「(子ども)に、必要なものがあって」


そう答えると、


「終わったなら、さっさと帰ってこい」


命令だった。


その言い方で、分かってしまった。

帰った後に、何が待っているのか。


思わず体がこわばり、


「まだ終わってないよ」


とっさに、嘘をついた。


本当は、

もう買うものなんてない。

予算も、ない。


それでも。


そう言わなければ、

ずっと待たれる気がした。


思わず、ついた嘘だった。

帰れない理由

突然の訪問 その日の気分は、悪くなかった。 久しぶりに外に出て、 美味しいものを食べて。 ありふれた、小さな幸せ。 それを、ただ味わっていた。 壊したのは、 一本の電話だった。 ポケットの中で、携帯が震える。 気づいた瞬間、嫌な予感がした。 画面を見たら、やはり、夫だった。 出た...