段々とヒートアップ
最初はただ、小言を言っているだけだった。
それが段々とヒートアップしていった。
一緒に暮らしていた頃もよくあったが、
夫は自分の叫び声に反応して
怒りを増幅させることがある。
この時も、
嫌味のような小言は
いつしか怒鳴り声に変わった。
私は咄嗟に間に入り、
視界を遮るような形になった。
そんな私の背中を
ギュッと掴む子ども。
怖かったのだと思う。
お義母さんはただオロオロしていて、
お義父さんも軽い口調でたしなめた。
だけど、そんな調子では
止めているのかいないのか
全く分からない。
「ほら、止めろ~」
なんて言っても、
怒りの動線に火のついた夫の耳には
全く入らなかった。
そんな中、
子どもと私だけが
必死で止めようとしていた。
だけど、必死の抵抗も全く意味をなさず、
事態は悪化するばかりだった。
耐えきれなくなった子どもはうずくまり、
その上から覆いかぶさるように
私も丸くなった。
このままでは物が飛んでくるかもしれない。
子どもが叩かれるかもしれない。
そんな恐怖に、
全身が覆われた。
自己肯定感の低い子ども
ひとしきり叫び、
夫は納得したようだった。
そこまでいかないと止められない、
というのも病的だと思う。
夫がトーンダウンし、
少しだけ静かになると、
義両親は何事もなかったかのように
帰り支度を始めた。
ああ、
子どもが叩かれなくて良かった。
心の底からホッとして、
全身の力が抜けた。
それと同時に、
まだ体の震えが止まらない子どものことが
とても心配になった。
抱きしめると、
その振動が直に伝わってくる。
それはまるで、
獲物に狙われた
小さな小さな動物のようだった。
これまで私たちは、
こうやって生き延びてきたんだなぁと
しみじみ実感した。
まだ目の血走った夫は、
お義父さんに促されて玄関の外に出ると、
「また来るわ」と言った。
いいえ。
もう来なくていい。
一生来てほしくない。
そんな言葉が
喉の奥まで出かかって、
だけど言うことはできなかった。
「塾の事、相談に乗るよ」とも言っていたけれど、
夫が絡むと碌なことにならない。
その時だって、
子どもはすっかりやる気を失くして、
「行ってもついていけないかも」と言い始めた。
「多分無理だと思う」
そう繰り返す子どものことが、
とても不憫で、悲しかった。
