独りよがりな夫
この人は、いつもそうだ。いつだって独りよがりで、
自分の気持ちばかりを優先する。
だから、
一緒にいても孤独だった。
同じ空間にいるのに、
ひとりきりの感覚。
子どもが産まれても、
何も変わらなかった。
むしろ、
更に厳しくなり、
子どもにも手を上げるようになった。
「子どもが産まれれば変わるだろう」
そんな期待を、
抱いた私が甘かった。
以前、この部屋で
夫が暴れた日のことを思い出す。
物が倒れる音。
荒い息遣い。
泣き声。
その光景が急に蘇り、
何も起きていないのに、
体が勝手に身構える。
家を出た日のことも、
まだはっきりと覚えている。
あの時の決意と、
震える手。
またいつ暴れ出すか。
そう怯える私たちに向かって、
「やっぱり家族は一緒が良いな」
と夫は言った。
上手く返事ができない。
うなずきも、
否定も、
どちらも出来なかった。
だって、
1mmたりとも
そんな風に思えなかったから。
ただひたすら、
この悪夢の時間が
早く終わればいいと願う。
子どもも無口だった。
視線を落とし、
必要以上に動かない。
それが気に入らなかったのか、
「子どもはもっと元気でなくちゃ」
と夫は言う。
何と、
残酷で滑稽なことだろう。
まるで、
夫が用意した舞台に、
私たちが立たされているみたいだ。
主役は夫。
自分の描いた筋書きから外れることを、
決して許さない。
帰らない夫
突然の訪問だけでも迷惑なのに、
一向に帰る気配がない。
そのことが、
じわじわと怖くなった。
もう寝る時間という頃にやってきて、
「ケーキを食べよう」
と子どもを誘い、
食べ終われば帰ると思っていた。
けれど、
1時間経っても動かない。
時計を見るたび、
胸がざわつく。
もし私が、
もう少し強く言えたなら。
「そろそろお開きにしよう」
それくらいは
言えたのかもしれない。
でも、
モラハラ夫の言うことは
いつも100%正しい。
そう思い込む癖が、
奥底まで染みついていた。
逆らえば、
何が起きるか分からない。
だから、
何も言えなかった。
内心は苛立ちと恐怖でいっぱいなのに、
口元だけが勝手に笑ってしまう。
その結果、
都合の悪い部分を決して見ない夫が、
歓迎されていると勘違いする。
そんな悪循環。
それでも我慢していた。
けれど、
時計が11時近くを指したとき、
意を決して、
「そろそろ寝る時間だから」
と伝えた。
声が、
わずかに震えていたと思う。
それでも、
夫は帰らなかった。
