招かれざる客
ドアを開けた瞬間、場違いな笑みを浮かべた
夫の姿が目に入った。
大きな体で見下ろされる。
それだけで、
喉がひくりと鳴る。
思わず、
一歩、後ずさった。
ドアを閉めようとした、その時。
隙間に、手が入った。
反射的に、
息が止まる。
指が、
ドアの縁に食い込んでいた。
そして、
そのまま押し返された。
本当は帰ってほしかった。
でも、その力で、
もう言えないと分かった。
私は強張ったまま、
「どうしたの?」
と声を絞り出した。
自分の声が、
少し遠くに聞こえた。
背後では、
テレビに出ている芸人さんたちの
明るい笑い声。
この状況とあまりにちぐはぐで、
現実味がない。
子どもは、
相変わらず固まっている。
耳を塞ぎたいはずなのに、
両手をぎゅっと握りしめて、
膝の上から動かさない。
ああ、
夢ならいいのに。
怖くて顔を直視できない私に、
夫はいつも通りの調子で、
「ちょっとだけいい?」
と言った。
ケーキなんて要らない
手土産まで持ってきていた。
歓迎されるとでも思ったのだろうか。
夫の手には、
カットケーキが三つ入った箱。
けれど、
「一緒に食べよう」
と言われても、
喉を通るはずがない。
私たちはすでに、
シュークリームを食べたあとだった。
しかも子どもは、
二つも食べている。
張り切って手伝ってくれた料理も、
ぺろりと平らげ、
さっきまで上機嫌だった。
その幸せな空間が、
いつの間にか、
重く、息苦しい時間へと変わっていた。
ずかずかと上がり込んだ夫が
腰を下ろしたのは、
子どもの正面。
私はとっさに、
キッチンから子どもを呼び寄せた。
皿を運んでもらうふりをして、
さりげなく距離を取らせる。
何とか、
真正面で向き合う形だけは避けられた。
三人で向かい合う。
夫は、
何事もない顔で
箱を開けた。
白いクリーム。
赤い苺。
この部屋の空気とは、
あまりにも不釣り合いだった。
フォークを持つ手が、
わずかに震える。
子どもも、
同じようにフォークを握っている。
甘いはずなのに、
何も感じなかった。
噛んでも、
味がしない。
飲み込むのに、
時間がかかる。
水が欲しいのに、
誰も言い出せない。
ただ、テレビの笑い声だけが響く。
三人で食べた、
味のしないケーキ。
甘いはずなのに、
喉の奥がひりついた。
