「誰のおかげ?」
電話に出ると、お義父さんは開口一番、こう言った。
「もう落ち着いたか」
まだ到着してから、
ほんの数時間しか経っていない。
部屋が最初から片付いていれば、
確かに、
それほど時間はかからなかっただろう。
けれど、実際は違った。
夫やその友人たちの私物が溢れ、
とてもそのままでは
暮らせる状態ではなかった。
片付けで体力も気力も削られていたところに、
この一言。
胸の奥に、
小さな棘が刺さったような感覚がした。
それでも、
義両親なりに
助けてくれた部分もある。
だから私は、
感情を抑えて、
「はい、おかげさまで」
とだけ答えた。
すると今度は、
唐突にこう言われた。
「感謝しないといけないな」
一瞬、
何のことか分からなかった。
言葉を返せずにいると、
お義父さんは続けた。
「そこに住めるのは、
(夫)のおかげなんだから」
頭の中が、
一気に混乱した。
一体、
どこが「夫のおかげ」なのだろう。
散々居座り、
家賃も払わず、
この家を仲間内のたまり場にした。
その痕跡が、
今も色濃く残る部屋で、
子どもと二人、
必死に再スタートを切ろうとしているのに。
それでもお義父さんは、
「夫のおかげ」と
言わせたいのか、
同じことを、
何度も問いかけてきた。
家族にまで演技する夫
なぜ、
お義父さんが
こんなことを言い出したのか。
理由は、
すぐに分かった。
それは、
夫がそう仕向けたのだ。
電話の途中で、
お義父さんがこんなことを言った。
「二人が幸せに暮らせれば、
それでいいって、
あいつは言っている」
その瞬間、
はっきりと理解した。
これは、
夫の策略だと。
弱々しく、
そう語られたら――
親なら、
きっと放っておけない。
その気持ちを利用して、
夫はまた、
自分を被害者のように見せている。
それだけではなかった。
夫は、
「いつかまた、
三人で暮らしたい」
そう言って、
泣きながら話しているらしい。
その結果、
義両親から告げられた。
「これからのことは、
よく考えてくれ」
「(夫)だけが、
辛い思いをすることのないように」
言葉が、
頭を素通りしていく。
私はもう、
返事をすることすらできず、
ただ黙って聞いていた。
ようやく話が途切れ、
終わるのかと思った、その時。
「今から(夫)に代わるから」
「一言、
何か言ってやって」
そう言われて、
頭の中が真っ白になった。
