「毎日声が聴きたい」
重い気持ちで、電話をかけた。
話し始めた瞬間から、
どうやって切り上げようか、
そればかりを考えていた。
それほどまでに、
夫との電話が嫌だった。
ずっと避けてきたのは、
怒鳴られたり、
なじられたりするのが
怖かったから。
それに、
夫のペースに乗せられて、
いつの間にか
勝手に話を進められてしまう。
それも、
強く警戒していた。
その日、
夫は開口一番、
こう言った。
「これからは、
毎日、声が聴きたい」
その言葉を聞いた瞬間、
頭の中が真っ白になった。
――毎日?
それは、
毎日電話をする、
ということだろうか。
慌てて、
「それは、ちょっと難しい」
と、できるだけ柔らかく伝えた。
すると、
すぐに強い口調で返ってきた。
「こっちは譲歩してるんだ。
それくらい、いいだろ?」
胸の奥が、
ぎゅっと縮む。
毎日、
こんな時間が待っている。
そう考えただけで、
とても耐えられないと思った。
子どもだって、
きっと同じだ。
毎日の電話が当たり前になったら、
いつか必ず、
話さなければならない日が来る。
その光景を想像して、
背筋がぞっとした。
言葉が、
出てこなくなった。
この人は、
私たちを
解放するつもりなどない。
離れてもなお、
縛り続けるつもりなのだ。
そう感じ取ってしまい、
叫び出したい衝動に駆られた。
何とか答えを保留に・・・
毎日の電話だけは、
絶対に嫌だった。
そう思っても、
はっきりと拒否することができない。
けれど、
言いなりになるわけにもいかず、
私は必死に言い訳を並べた。
最終的に、
結論は先延ばしになり、
ひとまず
保留という形に落ち着いた。
「時々、電話しろ」
くらいは言われるだろうと
思っていた。
まさか、
「毎日、電話しろ」
と言われるとは
想像もしていなかった。
だから、
想定外の提案に
完全に動揺してしまったが、
それでも、
その場で承諾せずに済んだことに、
心の底から安堵した。
私は、
忘れていた。
夫が、
決して諦めない人間だということを。
翌日から、
夫は執拗に
電話をかけてくるようになった。
着信履歴は、
夫の名前で
埋め尽くされていく。
数分おきに鳴る電話。
ひどい時には、
数十秒後に、また。
私は、
少しずつ、
追い詰められていった。
