義父からの連絡を無視し続けた私たち
あの日、私たちが家を出た後に真っ先に連絡をしてきたのはお義父さんだった。お義父さんはいつも言う。
『帰ってきてくれないと、こっちも困っちゃうよ』と。
そう言いながら、私たちの苦しみからは目を反らし続けた。
どうにもできなかったのかもしれない。
でも、実の息子のことなのだから諭すなり強く叱るなりして止めて欲しかった。
孫への虐待も見て見ぬふりをしないで欲しかった。
肝心なことになると『夫婦の問題だから二人で話し合って』と言っていた。
それができないから途方に暮れた。
私は夫が怖い。
怖くて怖くてたまらない。
普通に話し合うことができない。
それを、向き合えないことが原因だと言われているようで絶望した。
私たちが家を出たことも想定外では無かったようだ。
過去に何度か飛び出しているから免疫がついていたかな。
ただ、すぐに戻ると思っていたのに連絡がつかなくなって・・・。
段々と予想していた方向とは違ってしまったのだろう。
二人にとって『帰ってこない』という事実が受け入れがたかったようだった。
お義父さんは何度も何度も電話をしてきて、着信するたびに私は憂鬱になった。
電源を切ったり、バッグにしまいこんで見ないようにしたり。
色んなことをしたけれど、そうやって避けている時点で気にしているということだ。
これから先のことを考えるだけで不安なのに。
その上お義父さんからの電話にも怯えなければならないなんて。
その時は本当に携帯を捨ててしまいたくなった。
だけど、そこには姉や実家の連絡先も入っている。
実家の家電は番号を覚えているけれど、その他は覚えていなかった。
それに、携帯が無ければいざという時に連絡を取ることもできない。
その頃、夫はお義父さんに当たり散らしながら色々と考えていたようだ。
家で待っていても埒が明かないかもしれない。
そう考えて、ある場所へと向かっていた。
姉の家へと向かった夫
家を出たことは姉に伝えていなかった。
伝えてしまったら『知らないフリ』をすることはできないだろうし、夫の怒りの矛先が向いたら大変だから。
実家にも同じ理由で伝えていなかった。
そんな状況で夫がいきなり訪ねてきたのだから驚いたと思う。
普段から交流があれば、まだそこまでの驚きは無かったはずだ。
でも、5年以上も会っていない義弟がいきなり現れた。
「(私)ちゃん達は来てませんか?」
と急に言われ、姉は『何かあったんだ!』と慌ててしまったらしい。
「来てないけど。何かあったの?」
と聞いたら、
「自分が悪いんです・・・。ちょっと言い合いになってしまって」
と答えたそうだ。
自分が悪いなんてこれっぽっちも思っていないくせに。
そういう所がズルい人。
姉もこの時はまだ夫に対してそれほど不信感を持っていなかったから。
喧嘩した勢いで飛び出しちゃったのかな?くらいに考えた。
そんな理由なら大騒ぎするほどのことでもないだろうと両親には伝えなかった。
結果的に両親への相談を控えてくれて助かった。
この後、私たちはしばらく先輩の家でお世話になった。
それでも、夫が姉の家に行くことは二度となかった。
何日も何日も何の音沙汰もなく帰らなかったら、そろそろ姉も不審に思ったはずだ。
大事にしたくなかった夫は警戒した。
うちの両親に電話しなかったのも気づかれたくなかったのだろう。
姉と夫はお互いに連絡をすることも無ければ会いに行くこともない。
普段全く交流が無い。
だから、夫さえ騒ぎ立てなければこの件は誰にも知られずに済む。
自分の本性を知られることを恐れたのか、夫は当初この件をひた隠しにした。