私たちが家を出てから数か月が経過
家を出てから数か月が経過していた。途中で色んなトラブルがあったにせよ、夫はまだ家に居座り続けていた。
夫が居る限り、解約することも戻ることもできない。
力技で追い出そうとしたこともあったが・・・。
その後の影響を考えて止めた。
夫の怒りに火をつけてしまったら私たちの安全を確保できない。
子どものことを絶対に守りたいと思っていたし、私自身も子どもを育てていくためにリスクを冒すことはできなかった。
それで、やんわりと『出て行ってくれないかな』作戦を続けた。
ただ、夫がそんな軽い催促で動く訳がない。
こちらにしてみたら決死の覚悟で伝えても、『また言ってる』程度で済まされた。
数か月が経ち、分かったことがあった。
夫は何やかやと時間稼ぎをしていた。
そのうち、こちらの気持ちが変わるのではないか?
そんな期待をしていたような気がする。
時々は譲歩するような態度を見せたのも引き延ばすため。
『もう交渉は不可能だ』と思わせないために、あの手この手を使ってきた。
私はまんまとその術中にはまってしまったわけだが。
あの状況下では多くの人がそうなってしまうと思う。
それに気づいてからは、揺さぶりをかけてきても平常心を保つように心がけた。
居座る夫を何とかしたいという気持ちはもちろんあったけれど、極力関わらないようにした。
そうやっているうちに関係が薄れていけば良いなと思っていた。
反応して欲しい夫、疎遠にしたい私
私が反応しなくなってから、夫は更に暴れた。
暴言や脅し、泣き落としもあった。
暴言は、後から考えたら録音しておけば良かったと後悔した。
立派な証拠になるから離婚の交渉で使えたはずだ。
あの時はただただ反応しないことだけに集中していて、泣き落としにもうっかり同情心を見せないように気を付けていた。
ある時、夫はどうしても反応して欲しかったのか、
「今からお前の所に行く!」
とどこまで本気なのか分からない脅しをかけてきた。
そうは言っても、私たちの居場所を知らないでしょう?
そんな言葉には騙されないよ、と思ったのだが。
今すぐ家を飛び出して本当にこちらに向かいそうな気配があったので、『まさか居場所を突き止めたの?』と焦った。
以前から危惧していたのは、探偵でも使って調べられたらどうしようということだった。
流石に探偵に調べられたらバレてしまう。
夫自身が突き止めることはできなくても、プロの手に委ねれば簡単だ。
それを恐れて、外出時にはかなり気を付けて周りを見ていた。
一方的に電話が切られた後、私は携帯を持ったまましばらくその場に立ち尽くした。
あの様子から察するに、ある程度は居場所を突き止めている可能性がある。
もし本当に先輩の家に来てしまったらどうしよう。
子どもはちょうどその時先輩と近所のスーパーと百円ショップに出かけていて不在だった。
おやつの時間までには戻るということだったので、まだ1時間半ほどあった。
本当に夫がすぐにこちらに向かったとして、着くまでに1時間半くらい掛かる。
そうすると、子どもたちの帰宅予定とかぶる。
その瞬間、鉢合わせをしてしまった場面を想像してゾッとした。
このままではマズいと考えた私は、すぐに先輩に電話した。
でも、買い物をしている最中で気づかないのか、周りが賑やかで着信が聞こえないのか。
なかなか通じなかった。
そうこうしているうちにどんどん時間が過ぎていき、あと30分ほどで到着予想時刻となった。
居ても経ってもいられず、外に見に行こうとしたが・・・。
すれ違いになってしまってもいけない。
それに、出た瞬間に夫に見つかって連れて行かれるのではないかという懸念もあった。
焦りながらも、もう一度先輩に電話をすることにした私は、掛けながら出かける準備をした。
コール音よりも自分の心臓の音の方が大きくて、それを意識したら余計に緊張してしまった。
早く出なければ。
ここに居てはいけない。
焦りながら靴を履き、鍵を閉めようとしたところでようやく出た先輩。
「今買い物が終わった所なんだけど、何かあった?」
という声を聞いたらホッとして泣きそうになった。