2026年1月21日水曜日

事態が大きく動いた日

ずっと待ち望んだ言葉

その日、私は夫から、

やっと聞くことができた。


ずっと待ち望んでいた言葉を。


「実家に戻る」


そう告げると、

夫は大きく深呼吸をした。


何でも自分の思い通りにする人だけれど、

もしかしたらこの時は、

あの人なりに考えたのかもしれない。


考えて、考えて。

考え抜いた末の決断だったのだとしたら、


――よくぞ決断してくれた。


思わず、

お礼を言いたくなるほどだった。


別居をする前も、別居をしてからも。

いや、付き合い始めた頃から、

もうおかしくなっていたのかもしれない。


とにかく、

心がすれ違い、

分かり合えないことばかりだった。


だから、

未練はこれっぽっちもなかった。


清々しい気持ちで、

「分かった」

と答えながら、

私は必死に嬉しさを噛み殺した。


気持ちのままに動いたら、

叫び出してしまいそうだった。


落ち着いた口調で返事をしなければ、

こちらの本心を悟られてしまう。


もし、

「もう気持ちがない」

と分かれば、

夫はまたへそを曲げるだろう。


へそを曲げるだけなら、まだいい。


私の思い通りにしたくなくて、

「実家に戻る話」そのものを、

なかったことにされるかもしれない。


だから、

この喜びは絶対に隠さなければならなかった。


幸いなことに、

その日の夫は、いつもより寛大だった。


途中で失言があったかもしれないが、

些細なことは気にしない様子で、

私が残念そうに


「分かった」


と答えると、

申し訳なさそうな表情を見せた。


その姿からは、

モラハラをしていた人だとは、

とても想像できなかった。


外側に向けた

「いい人」の部分だけが、

そこにあった。


その日は、

とりあえず報告だけ、という形で、

十分ほどで通話は終わった。


電話を切ったあと、

私はようやく、


――ああ、私はもう

“外の人”になれたんだ。


そう、しみじみ感じていた。


恋の行方は・・・

あの会話で、

ひとつだけ肝心なことを聞き忘れていた。


相手の人とは、

上手くいっているのかどうか。


夫やNから聞いたのは、

ただ

「好きな人ができた」

という話だけだった。


となると、

相手の気持ちはどうなのか。


上手くいってほしい、

それしか思っていなかった。


けれど、

いかんせん、あの夫のことだ。

正直、少し心配でもあった。


親しいわけではないが、

話したことのあるその女性は、

とても快活な人だった。


コミュニケーション能力が高く、

人前にどんどん出ていくタイプ。


私とは正反対で、

いつも

「すごいなぁ」

と思って見ていた。


上手くいってもらわないと困る。


そう思って、

探りを入れるために、

何度かNに連絡をした。


そのたびに返ってきたのは、


「詳しくは分からないけど、仲良くはしてるよ

 さすがに、まだ付き合ってはいないんじゃないかな」


という返事だった。


「さすがに」と付けたのは、

まだ離婚前だからだろう。


私としては、

何の問題もなかったのだけれど。


結局、

本当のところは分からないまま。


私は大人しく、

夫が家を明け渡すのを待つことにした。

2026年1月20日火曜日

夫の恋愛-新たな動き

こちらから動けないジレンマ

夫に、好きな人ができた。


Nからそう告げられた瞬間、

私は心の底から、喜びを感じていた。


この日を、どれほど待ちわびていたことか。

いつかそんな日が来ないだろうかと、

ずっと夢見ていた。


それが現実になった。


嬉しさを抑えきれず、感情が爆発して、

その夜は一睡もできなかった。


眠れないまま、朝を迎えた。


翌日、私は朝からマシンガントークだった。

先輩は苦笑いしながら、


「今日はめちゃくちゃ元気だね」


そう言って、

「気を抜かず、慎重に動くんだよ」

と助言してくれた。


夫にようやく春が訪れそうなのは、

非常に喜ばしいことだった。


ただし、

ひとつだけ問題があった。


それは、

私がこの件を“知らないことになっている”

という事実だ。


Nには、内緒にするよう言われていた。

だから私は、この話を夫に切り出すことができない。


つまり、

相手から動くのを待つしかなかった。


この時間が、とても長く感じられた。


本当なら、今すぐにでもこの話題を投げかけて、

離婚の話を進めたかった。


けれど、

Nとの約束を破ることはできなかった。


もし破れば、

もう二度とNは信頼してくれないだろう。


私にとって彼は、

重要な情報源だった。


だから、耐えるしかなかった。


いつもなら憂鬱でしかない夫からの連絡も、

この時ばかりは、待ち遠しくて仕方なかった。


次は、きっとこの話だ。


そう踏んでいた予感は、

現実のものとなった。


数日後に夫からのカミングアウト

普段はメッセージで済ませる夫が、

その日は最初から通話を求めてきた。


――あの件だ。


言いたいことは、もう分かっている。

好きな人ができたことを、

私に伝えるつもりなのだろう。


私はできるだけ平静を装い、

「もしもし」

と応答した。


その日の夫の声は沈んでいて、

終始、静かだった。


「お前に言わなくちゃならないことがあるんだ……」


そう言われて、

心の中で

分かってる、分かってる

と答えながら、


「何かな?」


と返した。


すると突然、

夫は鼻をすすり始め、

涙声で語り出した。


「本当に、お前には申し訳ないと思ってる」


そう謝りながら、


好きな人ができたこと。

まだ、その人とは付き合っていないこと。

ただ、その気持ちのままで

あの部屋で待ち続けることはできないこと。


次々と語っていった。


ここまで聞いて、

私は思った。


これは、もしや――


話の流れ的に、

家を明け渡す、という展開ではないか。


期待が、膨らんだ。


ただ、この日は一言も挟まず、

最後まで黙って聞いていた。


というのも、

夫はすっかり自分の世界に入り込んでいたからだ。


正直、

その状況に酔っているように見えた。


好きな人がいる。

けれど、妻からも愛されている。

どちらかを選ばなければならない――


そんな物語の主人公にでも

なったつもりなのだろう。


最後まで黙っていたからか、

私がショックを受けていると勘違いした夫は、

何度も


「ごめんな」


と繰り返した。


内心では、

お礼を言いたいくらいだよ

と思いながら、


「ううん……、いいんだよ」


と答える私。


心の中で、

大きくガッツポーズした。

2026年1月19日月曜日

やはり夫の差し金だった

眠れない夜に送ったメッセージ

怖かった。


理由が分からないまま、

Nからの連絡に怯えていた、あの感覚は。


そして、その正体は――

やはり、夫だった。


夫の友人であるNから頻繁に連絡が来ていた理由。


それは、

私の勘違いでも、被害妄想でもなかった。


こちらの状況を探られている。


そう感じていた違和感は、

正しかった。


脳内で都合よく物事を組み替えてしまう夫は、別居後も、

「あいつは俺のことが好きなのに、別居という選択をしてしまった」

そんな世界に生きていた。


本当に好きなら、そんな選択はしない。

それは、あまりにも単純な理屈なのに。


なぜか夫の中では、

「いずれ元に戻る」が既定路線になっていた。


それが、私を苦しめていた。


では、なぜ夫はNを使ってまで、

私の状況を探ろうとしたのか。


理由は、ひとつしかなかった。


夫の側に、

離婚したい“理由”ができたからだ。


Nの意図が分からない間、

私はまた新しい恐怖と向き合っているようで、落ち着かなかった。


イライラして、

心が休まらなかった。


だから、

白黒つけたくなった。


はっきりさせないと、

壊れてしまいそうだった。


けれど、すぐに聞けないのが、私の弱さ。


悶々と考え続け、

気づけば一か月が経っていた。


「何か聞きたいことや、伝えたいことがあるなら、

はっきり言ってほしいです」


たった一文。


それを、

眠れない真夜中に送った。


非常識だったかもしれない。


でも、

限界だった。


感情を抑える余裕なんて、もう残っていなかった。


すると、Nは夜中の二時にもかかわらず、すぐに返してきた。


「今、ちょっと話せるかな」


逃げ場はなかった。


私は、OKした。


夫の本当の狙い

電話越しのNの声は、固かった。

緊張が、そのまま伝わってきた。


だから私は、

わざと軽い口調で切り出した。


「何か、ありますよね?」


返ってきたのは、

「……うん、まあ……」

歯切れの悪い言葉。


そして、しばらくの沈黙のあと、

「俺から聞いたって、絶対に言わないで」

そう念を押されて、

真実を告げられた。


夫には、好きな人ができていた。


以前の、ゲーム仲間との軽い恋愛ごっことは違う。

相手は、私も知っている人だった。


それなら、離婚すればいい。


そう言うと、Nは言った。

夫は、私との縁が切れるのが怖いのだと。

離婚しても、繋がっていたいのだと。


その言葉を聞いた瞬間、背中が冷たくなった。


でも同時に、救われた気もした。


これは、私にとっての出口だった。


もし私が、

「嫌いだ」とはっきり言えたら。

それが、夫を前に進ませるのではないか。


そう思って、Nに提案した。


すると、

「それはやめた方がいい。

(私)ちゃんに愛されてるって思えることが、

あいつの原動力だから」


そう止められた。


つまり私は、

拒絶すら許されない存在だった。


それでも。


それでも、

気持ちは不思議と軽くなっていた。


やっと分かった。

鎖を切る準備ができたんだ。


自由はもう、

すぐそこまで来ていた。

2026年1月17日土曜日

頻繁に来るNからの連絡を警戒

目的が分からない、という恐怖

夫の友人Nから、頻繁に連絡が来るようになった。


そんな軽い感じでやり取りするような間柄ではないと思うのだが、ある時を境に、急にメッセージを送ってくるようになった。


内容も、どうでも良いものばかり。


はっきり言って、面倒だった。


でも、夫に何を言われるか分からない。

変なことを吹き込まれて、状況が危うくなるのは困る。


これから「離婚」という一大イベントを控えているのだ。

失敗したくないと思うのが、普通だろう。


そんな思いが根底にあって、

いつもより少し愛想良く、丁寧に対応してしまった。


それが良くなかったのか、

連絡はどんどんエスカレートしていった。


酷い時には、日に何度も。


さすがに仕事中はないが、

朝の始業前や昼休み、

夜、寝る前の時間帯にも届く。


通知を見るたびに、気が滅入った。


気づけば、未読スルーするようになっていた。


これはまずい。

もしかしたら、夫が怒鳴り込んでくるかもしれない。


そんな恐怖もあり、

気力を振り絞って、数回に一回は返事をした。


それにしても、一体何を考えているのか。


こちらの動向を探っている?

それとも、ただの善意?


分からないというのは、非常に怖い。


あれこれ考えてみても、

はっきりとした答えは出ず、

結局「夫の差し金だろう」という結論に落ち着いた。


疑心暗鬼になり、言葉の裏を読むように・・・

Nから連絡が来るたびに、

その意味を考えるようになった。


そのまま受け取るのは危険だと思い、

言葉の裏まで読む。


しまいには、裏の裏まで読もうとして、

何が何だか分からなくなることもあった。


考えないようにしても、

すぐ次のメッセージが来る。


精神的なストレスで、

心の余裕はどんどん削られていった。


そんな中でも、

子どもの存在だけは癒しだった。


ちょっとした会話一つで、

ギスギスした心が、少しだけ和らぐ。


それでも、Nからの連絡は増えていく。


ついには、毎日。


怖い。

正直、怖すぎた。


返事をしても、しなくても、

毎日のように来る。


それに気づくだけで、ストレスだった。


Nと夫、

二人からじわじわ追い詰められているような気がして、

思わず、夫に真意を確かめたくなった。


……いや、待て。


こちらから連絡をしたら、

相手の思うつぼかもしれない。


ここは、静観した方がいい。


そんな葛藤を繰り返し、

結局、夫への連絡はしなかった。


その頃、Nは何度も聞いてきた。


「困っていることはない?」


困っていることと言えば、

夫のこと、そのものだった。


友人として、何とかしてほしい。

Nに対する要望は、それだけだった。


それを言いたい衝動に駆られた。


でも、やっぱり危険だと思い、

当たり障りのない返答をした。


正解だったのかは、分からない。


ただ一つ言えるのは、

Nからの連絡が来るたびに、

私の中の警戒心だけが、

確実に育っていったということだ。

2026年1月16日金曜日

塾に通いたい子ども

友だちからのお誘いでその気に・・・

子どもが急に、

「塾に行きたい」と言い出した。


普通のご家庭なら、


「やっとやる気になったのね!」


と、大喜びするところだろう。


でも、我が家はちょっと事情が違う。


聞いた瞬間、

『現実的に可能だろうか?』

そんな考えが、真っ先に浮かんだ。


まず気になるのは、やっぱりお金。


三人で暮らしていた頃もカツカツだったけれど、

家を出てからは別々の拠点で生活している。


生活費は二重。

当然、余裕なんてない。


元の家の方を全額負担していたわけではない。

それでも、自由に使えるお金はごくわずかだった。


少し浮いたら、

できるだけ将来のために貯金したい。


それは、

私たちが安心して暮らすためのお金。


だから大事で、

簡単に崩すわけにはいかなかった。


とはいえ、

子どもが「やってみたい」と言っている。


それを頭ごなしに否定するのも、違う気がした。


できれば、

色んなことに挑戦させてあげたい。


あんな目に遭って、

それでも勉強に向き合おうとしている。


それだけで、もう十分すごいことだ。


ただ――

不安は消えない。


学校帰りに、

家の近くの塾へ通うこと。


その地域には、夫がいる。

しかも、徒歩圏内。


もしこの情報を知ったら、

待ち伏せしないとは言い切れない。


子どもは、そんなこと想像もしていないだろう。


でも私は、

どうしても過去のことが頭をよぎってしまう。


「うーん……」


思わず唸って、考え込んだ。


背中を押したい気持ちと、

不安な気持ち。


その間で、

すぐに答えは出せなかった。


現実的な対策を考えた

せっかく出てきたやる気。

できれば、摘みたくない。


そう思って、

現実的にできることを一つずつ考えた。


まずは、お迎え。


塾が終わる時間に迎えに行くことはできる。

ただ、急な仕事が入ったら間に合わないかもしれない。


一人で外で待たせるのは危険だ。


そう思って、実際に現場を見に行った。


子どもと一緒に。


本人は入塾だと思って、

すっかりはしゃいでいた。


その姿を見たら、

もう「行かせたい」が勝ってしまった。


実際に見て分かったのは、

建物の中に待てるスペースがあるということ。


これなら、

外で待ちぼうけになる心配はない。


事前に講師の方に伝えておけば、

より安全に通わせられそうだ。


お迎え問題は、クリア。


残るは、お金。


正直、余剰金なんてない。


食費や雑費を少しずつ削って、

それでも足りない分は、

貯金に回していた一部を塾代へ。


そうして、なんとかやりくりした。


ここまで準備して、

ようやく「通える」。


母子家庭なんて、

どこもこんなものだと思う。


余裕は、ない。


「パートナーに出してもらえば?」


そう言う人もいるだろう。


でも、

それが現実的に不可能な家もある。


仮に夫が、

ブランクなく働き続けていたとしても――

きっと、お金は出さない。


むしろ、お願いした瞬間、


「お前には任せておけない」


そう言って、

子どもを取り上げようとするだろう。


実際、何度か話したことはある。


そのたびに、

激怒されるか、無視されるか。


こんな話を切り出すのは、

本当に心臓に悪い。


繰り返すうちに、

言う前から結末が見えるようになった。


だから私は、

最初から諦める方が楽なのだと、

いつの間にか学んでしまった。

2026年1月15日木曜日

すぐ傍で再々再就職先を探し始めた夫

不気味な動き

居場所がバレてから、間もなくして、夫が再々再就職先を探し始めた。


そこまでは、はっきり覚えている。

けれど、それ以降の記憶は、正直あやふやだ。


頭の中が、常にざわついていた。


決まりかけた仕事を自分から断ったり、

勤め始めたと思ったら、すぐに辞めてしまったり。


その繰り返しで、

私は途中から「何社目なのか」を数えるのをやめた。


数える意味が、なくなってしまったのだ。


ただ、

「今は働いているんだろうか」

「また無職に戻ったんだろうか」

そんなことを、ぼんやり考えるだけだった。


なぜ、こんなにも続かないのか。


答えは分かっている。

あの性格のせいだ。


癖が強く、扱いづらく、

何より、自分が特別であることを疑わない。


常に敬われ、優遇され、

思い通りに扱われなければ気が済まない。


少しでも期待と違えば、不満を溜め込み、

やがてそれを誰かにぶつける。


――いつも、そうだった。


ブランクだらけで、職歴も途切れ途切れなのに、

それでもなお「理想の職場」を求め続ける。


無理だと、誰の目にも明らかなのに。


本人だけが、それに気づかない。


だから不満は消えない。

消えない不満は、必ず外に漏れ出す。


一緒にいれば、その矛先は私に向く。

……いや、違う。


私だけじゃない。

子どもも、同じように標的にされる。


私は大人だ。

耐えようと思えば、耐えられる。


でも、子どもはまだ小学生で、

大人の事情なんて、理解できるはずもなかった。


仮に理解できたとしても、

八つ当たりされていい理由には、ならない。


それなのに、夫はまた――

私たちの近くに来ようとしていた。


引っ越しをするつもりではない。

それは分かっていた。


借りている部屋は私の名義だし、

夫は自分名義で部屋を借りる気すらない。


口では色々言うが、

実際には、何一つ行動に移さない人だ。


だからこそ、

「近くに来る」という事実が、

余計に不気味だった。


近くに来る。

住むのではなく、働く場所として。


わざわざ、

私たちが住んでいる場所の近くで、

再々再就職先を探しているらしかった。


それを知ったのは、

以前の話し合いに同席してくれたNからの連絡だった。


Nとの話で分かったこと

Nからは、時々連絡が来ていた。


私から連絡することはない。

でも、近況を尋ねられれば、答えていた。


Nに恨みはない。

むしろ、できるだけ公平であろうとしてくれた人だ。


だから、信頼していた。

――していた、のだ。


久しぶりに届いたNからのメッセージは、

一見すると、何気ないものだった。


『(夫)が仕事を探し始めたみたいだよ。

これで少しは安心かな。

場所がね、どうやら(私)ちゃん達のいる所の近くらしくて。

やっぱり家族に会いたいんだろうね』


読み進めるごとに、

胸の奥が、じわじわと冷えていった。


安心?

どこが?


家族に会いたい?

その言葉が、気味悪かった。


手紙だけでは足りず、

今度は距離を詰めてくる。


そう思った瞬間、

喉の奥が、きゅっと締めつけられた。


夫の仕事は、テレワークが多いはずだ。

そう思って、かすかな希望にすがるように尋ねた。


すると返ってきたのは、


『テレワーク可でも、出勤するつもりみたいだよ』


その一文で、すべてが崩れた。


頭の中が、真っ白になった。


せっかく離れたのに。

やっと距離を取れたのに。


それでもなお、

夫は近づいてくる。


物理的に離れても、

連絡を断っても、

存在だけが、しつこく追いかけてくる。


逃げ場が、ない。


「来ないで」と言えばいい?

そんな簡単な話じゃない。


言ったところで、

「俺の自由だろ」

そう言われるだけだ。


それどころか、

また何かされるかもしれない。


そう考えると、

言葉は喉の奥で、固まってしまった。


こうして私はまた、

自分の力だけではどうにもならない現実を、

静かに、確実に、抱え込むことになった。

2026年1月14日水曜日

子どもの身を守るために。防犯ブザーを購入

頻繁に出没するようになった夫

頻繁に出没するようになった夫。


わざわざ手紙を寄越したのは、

私たちに気づかせるためだ。


――俺は、見ているぞ。


そう言われている気がした。


正直、怖かった。


次は、何をしてくるのだろう。

そう考えただけで、背中に冷たいものが走る。


それでも、

私たちは生活を止めるわけにはいかなかった。


日々やらなければならないことはある。

子どもにも、できるだけいつも通りの日常を過ごさせてあげたかった。


だから、

気をつけながら、

できる限り、いつも通りに過ごすことにした。


いつ、どこで、夫に出くわすか分からない。

その緊張感の中で、神経は常に張りつめていた。


それでも。


普通の毎日を送ることが、

私たちなりの、精一杯の抵抗だった。


居場所を知られてから、

夫の様子は、明らかに変わった。


まるで、何かのストッパーが外れたみたいに。


自由に現れるようになり、

「あれほど来ないでほしい」と伝えた約束は、

あっさりと破られた。


……守ってくれるとは、最初から思っていなかった。

それでも、ここまで堂々と無視されるとは、思っていなかった。


あの人は、

「自分が正しい」と疑わない。


妻や子どもがいる場所に顔を出すことを、

当然の権利だと信じている。


本当に、迷惑な話だ。

――いや、迷惑なんて言葉では足りない。


何よりも、

子どもの身を守らなければならなかった。


一体、何ができるのだろう。


考え続けて、

ふと頭に浮かんだのが、防犯ブザーだった。


いざという時、

それを鳴らせば、周囲に異変を知らせることができる。


そう思い立った瞬間、

私はもう、店へ向かっていた。


お守りのように持ち歩かれた防犯ブザー

子どもは、防犯ブザーを毎日、大事そうに持ち歩いた。


それが、自分の身を守るものだと、

ちゃんと分かっているようだった。


行き帰りの道では、

いつでも使えるように、

小さな手で、ぎゅっと握りしめていた。


あまりにも強く握るものだから、

買って間もないうちに、

新品特有の、あのぴかぴかした感じは消えていった。


それを見るたびに、

「ちゃんと使っている証拠だ」と自分に言い聞かせて、

一瞬、ホッとした。


それでも――


小さな手で、防犯ブザーを握りしめる姿を見ると、

胸の奥が、きゅっと締めつけられた。


それでも同時に、

不思議と、頼もしくも感じていた。


にこっと笑って、


「これがあれば、大丈夫!」


そう言って、

薄いパステルカラーのブザーを見せてくれる。


その姿が、

たまらなく、愛おしかった。


要らぬ苦労をさせてしまったことを、

後悔しないと言えば、嘘になる。


それでも。


立ち止まるより、

前へ進もう。


そう思わせてくれたのは、

子どもの明るさと、笑顔だった。


私は、

その小さな背中に、何度も救われていた。


そんなふうに、支えられながら、日々を過ごしていた。


夫は、どこかで、

私たちの隙を窺っているようだった。


怒鳴りつけてくることもあれば、

猫なで声で、急に優しく話しかけてくることもある。


相手を操ろうとする。

だから、一瞬たりとも、気を抜くことができなかった。


そんな中、

二度目の話し合いを打診されていたが、

私は、何となくそれを先延ばしにしていた。


心が、拒否していたのだと思う。


そして――

またしても、事件が起きた。


実は夫が、

再々再就職に向けて、動き出したのだが。


それは、

思いもよらない形で、

私たちの生活を揺さぶる選択だった。

事態が大きく動いた日

ずっと待ち望んだ言葉 その日、私は夫から、 やっと聞くことができた。 ずっと待ち望んでいた言葉を。 「実家に戻る」 そう告げると、 夫は大きく深呼吸をした。 何でも自分の思い通りにする人だけれど、 もしかしたらこの時は、 あの人なりに考えたのかもしれない。 考えて、考えて。 考え...