逃げ続けることはできるのか
夫の再々就職後はある程度の自由があった。その状態まで持っていくのには長い時間がかかったのだけれど。
家を出たばかりの頃はしつこい位に連絡が来ていて、そのたびに怯えた。
いつ居場所を突き止められて連れ戻されるか。
そう考えると気が気では無くて・・・。
それが時間が経つにつれて連絡が減ったり増えたりを繰り返すようになった。
その間、義実家の方でも色んな問題が発生。
向こうが他の問題を抱えている時には数週間ほど音信普通になることも。
実はそういう状況を待ち望んでいた部分もあり、気の毒に思いつつもホッとしていた。
雲行きが怪しくなったのは、夫の再々就職先の経営状況が芳しくなくなってからだ。
何となく、『まだ籍も抜けてないんだから面倒を見るべき』という空気が漂っていた。
押し付けられそうな雰囲気を感じ取った私は抵抗し、のらりくらりと交わした。
義両親の直談判にも首を縦に振らなかったら、業を煮やした二人がとうとう
「とりあえず居場所だけは教えて」
と言い出した。
私がもっとも恐れていたことだ。
一時的とは言え平和な生活を送れていたのは居場所を知られずに済んだからだ。
その生活を失いたくなくて、『教えろ』と言われても絶対に教えなかった。
そうしたら調査するようなことを匂わされ、流石に焦った。
スルーし続けることはできないかもしれない。
どうせバレるのなら自分から言ってしまった方がまだ傷は浅く済むだろうか。
私は葛藤し、だけどバレた後のことを想像すると身動きが取れずにいた。
先輩に迷惑をかけたくない
『調査会社を使って調べる』と宣言された後、私は先輩に相談した。
これ以上、迷惑をかけられないと思った。
引っ越し先を探すつもりで、
「もうここには居られないかもしれない」
と伝え、義両親がこれからやろうとしていることも説明した。
普通なら親戚でもないのにそこまでリスクのある相手を家に置いておきたくはないはずだ。
それまで先輩は一人で自由気ままに暮らしてきた。
そこに小学生を連れた後輩が転がり込んできたんだから。
迷惑を掛けていないはずがない。
それに、最初はほんの少しの間だけ・・・と始めた居候だった。
長居しすぎてしまったことも申し訳なく、お世話になった先輩まで巻き込むことは避けたかった。
当初は、
「先輩が良い人を見つけて結婚することになったら出て行きますね」
なんて冗談を言っていたのだが。
内心は、あまりにも居心地が良くて『先輩に彼氏が出来たら嫌だな』なんて考えてしまった。
なんて自分勝手なんだろう。
とにかく幸せな思い出が多すぎて、出て行くことになるかもしれないと思ったら寂しさがこみ上げてきた。
「本当にお世話になりました」
と頭を下げながら、涙でぐちゃぐちゃになった。
だが、そんな事情を聞いても、
「出て行くなんて言わないでよ。一緒に対策を考えよう」
と言ってくれた先輩。
泣きじゃくる私の背中を何度もさすってくれた。






