傷を残したくなくて
夫に破かれたノートは、見るも無残な姿だった。
きっと子どもは、
手に取るたびに思い出すだろう。
あの出来事を。
十分に傷ついているのに、
そのたびに
また傷ついてしまうかもしれない。
そう思ったら、
多少無事な方のノートも
使い続けることはできなかった。
一生懸命書いた文字が、
涙で滲む。
「新しいの買おうね」
そう言うと、
子どもはコクリと頷いた。
気づけば、
すっかり夜になっていた。
本当なら、
美味しいご飯を食べて
気持ちを切り替えたい。
でも聞けば、
そのノートを
「明日使う」と言う。
明日のために、
新しいノートが必要になった。
まっさらなノートが。
私は急いで夕飯の準備をして、
出かける支度をした。
子どもにも
「すぐ出られるようにしてね」
と声をかける。
玄関の外へ出ると、
辺りはすっかり暗くなっていた。
夫が去り、
ようやく安全な場所に戻れたはずだった。
それなのに。
気持ちはまるで、
綱渡りをしているようだった。
ありがとうが切なくて
お店に行くと、
使っていたのと同じノートが売られていた。
何も考えずに、
それを手に取る。
会計を済ませようと
レジへ向かいかけた時だった。
「それじゃないのがいい」
子どもが言った。
「せっかくだから、
全然違うのにしよう」
そう言いながら、
笑顔でノートを選ぶ。
何もなければ、
『楽しそうね』
と思ったかもしれない。
だけど。
あんなことがあったばかりだ。
私は不安になって、
子どもの様子を見てしまう。
その笑顔は、
どこかひきつって見えた。
きっと、
気のせいではない。
結局、
前とは違うノートを購入し、
お店をあとにした。
家に着くとすぐに、
子どもは丁寧に名前を書いていた。
「ありがとう。
大切にするね」
その言葉が、
胸に刺さった。
『また守れなかった』
そんな思いばかりが、
少しずつ積み重なっていく。






