82点の答案
別居中の夫が、勝手に家へ入り込み、
テストを探し出していた。
まさか、
そんなことをするなんて。
驚いて、
声も出なかった。
テーブルの上には、
子どものテスト。
大きく82点と書かれている。
子どもにとっては、
十分がんばった結果だった。
持ち帰った時、
私はたくさん褒めた。
それなのに夫は、
顔を真っ赤にして怒った。
「お前はバカだ」
「人間のクズだ」
「恥ずかしく思わないなんて
頭がおかしい」
次々と吐き出される暴言。
私も子どもも、
ただ黙っていた。
何をそこまで怒っているのか、
分からない。
理解できなかった。
途中、
夫は子どもに向かって叫んだ。
「目の前に座れ」
その言葉だけは、
とっさに止めた。
近付かせたくなかった。
何をされるか、
分からなかったからだ。
子どもを背中に隠し、
夫との間に立つ。
そして言った。
「がんばったんだよ。
褒めてあげてほしい」
その瞬間だった。
夫の目が据わった。
「あぁ?!」
低い声で凄みながら、
こちらを睨みつける。
手のひらに汗が滲む。
足が震えた。
耐えきれなくなって、
私は子どもを抱きしめた。
びりびりに破られたもの
子どもを抱きしめている間も、
夫は怒鳴り続けていた。
罵声は途切れない。
家中に響く声だった。
心臓まで震えるようで、
顔を上げることができない。
ただ、
その声を聞き続けた。
どれくらい経っただろう。
しばらくして、
怒鳴り声が少しだけ弱まった。
その時になって、
ようやく口を開くことができた。
恐る恐る顔を上げる。
夫はまだ怒っていた。
そして、
テーブルの上のテストは、
ぐしゃぐしゃに丸められていた。
胸が痛んだ。
子どもの努力まで、
踏みにじられた気がして。
こんな言葉を、
子どもに聞かせたくなかった。
けれど夫は、
聞かせるために怒鳴っていた。
終わらせたい。
その一心だった。
私は子どもを部屋の隅に座らせ、
夫の前に座った。
「もう、
そういうの止めて欲しい」
やっと絞り出した言葉だった。
だが次の瞬間、
夫は信じられない行動に出る。
目の前で、
答案用紙を破り始めた。
びりっ。
びりっ。
何度も音が響く。
子どもは、
声を殺して泣いていた。
それでも夫の手は止まらなかった。






