夫の気配
入学式の朝、かなり早めについて、
子どもとおしゃべりしていた。
まだ人もまばらで、
ゆるりとした空気が流れている。
あの日は、
本当に穏やかな
良い日だった。
夫を避けるためとはいえ、
早く来すぎたかもしれない。
そんな風に思っていたら、
何人か人がいて、
ほっとした。
このまま顔を合わせることなく
式が始まってしまえば、
もっと安心できる。
そう思った瞬間だった。
見慣れた人物が、
目の端にうつったのは。
私は慌てて、
視線をそらした。
間違いない。
あの独特の雰囲気を出せるのは
夫しかいない。
視線を外しても、
こちらに向かって歩いてくる
気配を感じてしまう。
ぞっとして、
思わず後ずさった。
本当は、
逃げ出したい。
けれど、
ここでは逃げ場なんてない。
逃げ回っていたら、
それこそ悪目立ちしてしまう。
周りの目も気になり、
固まったまま、
動けなくなった。
自分勝手な言い分
笑みを浮かべながら、
近づいてきた夫。
子どもは、
真顔で固まった。
引きつった笑顔の子どもを見ても、
夫は何も思わない。
もしかしたら、
気づいていないのかも。
虐待していたのに、
嫌われていないと
思っているくらいだから。
というよりも、
誰がどう見ても虐待なのに、
『教育だった』
と譲らない。
そんなパパに対し、
子どもは、
どこか諦めていた。
「いよいよだな」
微笑みながら言うけれど、
親らしい気持ちなんて、
一つもないはずだ。
夫は、
校門の方に目をやりながら、
「うちの親も来てるから」
と言った。
彼らはなんと、
私服で来ていた。
しかも、
かなりラフなやつ。
先生方も、
さぞかし驚かれたことだろう。
「うちの孫だから」
「〇〇家として、
見ておかなければ」
そんな理屈を並べて、
自分たちの行いを
正当化していた。
夫はそんな義両親を、
「まあ、しょうがないよ。
(子ども)はうち側の人間なんだから」
と肯定した。
訳が分からなかった。
諦めてくれたのかも、
と一瞬思ったのも、
間違いだった。
子どもは終始、
不安そうにうつむいていた。
私は彼らの執着を目の当たりにして、
ただ、
途方にくれた。





