「お金で解決できる」と信じている人たち
せっかく断ったのに。それでもお義父さんは、
現金の入った封筒を
私の手に押しつけてきた。
無理やり、握らせる。
離さないように、
その上から手を重ねてくる。
――離してくれない。
「何とかしなければ」と思い、
その手を押しのける。
そして、もう一度、
テーブルの上に戻した。
すると。
ずっと黙っていた夫が、
低い声で言った。
「もらっとけ」
一瞬にして、空気が変わる。
……ああ、やっぱり。
本当に落ち込んでなど、いなかった。
頑なな私に苛立った夫が、
義両親に加勢する。
その瞬間、逃げ場がなくなった。
押し返す手が震え、
心臓が大きく音を立てる。
それでも。
受け取るわけにはいかない。
これを受け取ったら、終わる。
夫のことも、
この関係も、
受け入れたことにされてしまう。
せっかく別居までこぎつけたのに、
ここで戻れば、すべて無駄になる。
――ここにいたら、危ない。
そう感じたときには、
もう体が動いていた。
バッグを掴み、立ち上がる。
挨拶もそこそこに、
その場を離れようとした。
逃げるしかなかった。
だが、その瞬間。
夫も立ち上がり、
バッグに封筒をねじ込んでくる。
阻止しようとしても、
力が強すぎる。
押し返され、
その迫力に圧倒された。
怖い。
そう感じたまま、
何もできなかった。
結局。
追われるようにして、
義実家を後にした。
去り際に、
こっそり封筒を玄関に置いた。
何か言われる前に飛び出し、
ドアを急いで閉めた。
義実家を出た瞬間、どっと疲労が・・・
勢いよく家を出たあと、
少し大きい通りまで走った。
本能的に、
人のいる場所を求めていた。
ちらほらと人通りのある道に出て、
ようやく一息つく。
そのとき。
握られていた手首が、
赤くなっていることに気づいた。
少しだけ残る痛みが、
さっきのやり取りの激しさを物語っていた。
でも、それ以上に堪えたのは、
精神的な疲労だった。
もし、あのまま受け取っていたら――
そんな考えが頭をよぎり、
神経がすり減っていく。
駅まで歩き、
人の多い場所に出ると、
ようやく安心できた。
夫との話し合いは、いつも辛い。
分かってもらえないことも、
離れたい相手に執着されることも。
そして、その執着の多くが
子どもに向いていることにも、
言いようのない恐怖を感じていた。
この日は何とか阻止できたけれど、
別居してからの数年間、
同じ言葉が何度も繰り返された。
「戻りたい」
「俺の居場所を残しておいて」
その言葉は、
まるで呪いのように、
子どもと私の生活に
まとわりついて離れなかった。






